ひめかちゃんの冒険ーよりみちさまとひかりのこー
お父さんとお母さんがもう眠ったころ、ひめかちゃんは走っていた。
向こうに明かりが見える
「あーあそこ?あそこに行くの?」
一緒に走っている金色のネコに尋ねる。
「ち、違うにゃ。もっと向こうの大きい木の下にゃ」
風を切って二人は走る。
向こうに見える明かりは全然近づいてこない。
ネコは舌を出したまま走っている。
「も…もうだめにゃ。疲れたにゃ。走れないにゃ」
でもひめかちゃんは全然疲れてない
「行こう!早く行こうネコさん」
大きなトラックが見えてきた。
ひめかちゃんはピューンと追い越した。
飛行機がひゅーんと飛んでいる。
ひめかちゃんはぴゅぴゅーんって追い抜いた。
「もう…もうムリにゃ、走れにゃいにゃ~ん」
ネコはそういいながら走っている。
「はやくはやく」
そういうとひめかちゃんは前を見た。
いつの間にか明かりは消えて、大きな木が見える。
「あ!あれ!?」
「そうにゃ、もうすぐにゃ、もうちょっとにゃ」
ネコは目を回しながら走ってる。
大きな木はどんどん近づいてくる。
とーっても大きい。
「すごーい。お空が見えない」
大きな枝の下を二人は走っている。
「もうすぐにゃ、もう着くにゃ、ヒツジさんが待ってるにゃ」
ネコは一本足でくるくる回りながら走っている。
「ヒツジさん?ヒツジさんと待ち合わせしているのね!」
でもでも大きな木の幹と、遠くまで続く枝葉のほかには何も見えない。
「いたにゃ、おおい、ヒツジさぁん」
ネコが言っている。
見て見ると大きな大きな根の上に緑色のヒツジさんが立っている。
「わぁ、緑色のヒツジさんだぁ!」
ひめかちゃんはびっくり。
「やっと着いたにゃ。遠かったにゃ。」
ネコはヘトヘト
「あらね、ネコさんね、今日もね、金ぴかピンでね、オシャレね。でね、私ね、待っている間ね、ずっとね、草をね、食べてね、いたんだけどね、なんでね、呼ばれたのかしらね。」
ヒツジはもしゃもしゃ草を食べながら言っている。
「なんでじゃないにゃ。この子を呼んでいるって言ったのはヒツジさんだにゃ。ヨリミチさまが呼んでるって言ったにゃ!」
ネコは地面にべったりしながら
「ああね、そうね、そうね。そんなことね、言ったわね。でね、ヨリミチ様はね、今ね、どこかね、わからないのよね。」
ヒツジはまだもしゃもしゃ。
「そんなこと言うなにゃ。もう疲れたにゃ。この子だっていっぱい走ったにゃ。」
ネコはぜーぜー。
「ひめか、まだ全然疲れてないよ」
ひめかちゃんは元気いっぱい!
「まぁね、元気ね、ステキね、ヨリミチさまもね、会いたい訳だわね。」
とヒツジさん。
「それじゃね、行きましょかね、ヨリミチ様をね、探しにね。」
「まだ走るにゃ?ちょっと休憩にゃ」
とネコさん。
「ねぇ、ヨリミチ様ってだぁれ?」
ひめかちゃんが尋ねた。
ネコとヒツジはパッとひめかちゃんの方を見た。
「あらね、そうね、ヨリミチ様のことね、知らないわね、えとね、なんてね、いえばね、いいかしらね、ネコさんね。」
ヒツジがネコの方を見た
「ヨリミチ様は偉い人だにゃ。ひめかちゃんを待ってるにゃ。ひめかちゃんが来てくれないかにゃ~って待ってるにゃ。」
「そうなんだ!じゃあ急いで会いに行かなきゃ!」
ひめかちゃんは元気いっぱい
「それじゃね、行きましょね。でもね、どこにね、行ったらね、いいかね」
ヒツジさんはまだ草をもしゃもしゃ。
「あー、あそこ」
ひめかちゃんが指さした
「お馬さんに乗ってる人たちがいるよ」
「あらね、本当だわね。あの人らにね、聞いてね、みましょかね。」
ひめかちゃんとネコとヒツジさんはお馬さんに乗った人たちのところまで走ったよ。
「すみませ~ん。ヨリミチ様知らないですか?」
ひめかちゃんが聞いてみる。
「知ってるわけないにゃ。この人たちなんだか怖いにゃ」
「でもね、そういってもね、聞くしかね、ないのよね」
お馬さんに乗ってない人がびっくり
「大尉!大尉!ネコとヒツジがしゃべっているであります!」
お馬さんに乗ってる人が答えた
「うるせぇい。俺にだってわからぁ。ヨリミチ様とな?誰じゃいそれは」
聞かれたのでひめかちゃん
「ヨリミチ様はね、偉い人なんだよ。ひめかを待っているんだって」
お馬に乗った人はひげを回しながらふむぅといって
「俺にはわからんねぇ。人を探すんなら俺じゃなくてイツセさまに聞くといい。イツセさまはずっと昔から生きてる物知りだけぇな。年老いすぎて耳が遠いけどな。アハアハアハ」
と笑ってる。
「イツセって誰にゃ。どこにいるにゃ」
とネコさん
「おいぃ、イツセさまはばどこに居るとかねぇ」
と、お馬さんに乗ってる人が言うと、
「大尉!大尉!イツセさまは遥か山の向こうであります」
とお馬さんに乗っていない人
「そりゃ遠い。よし、馬をば一頭くれてやろう!おいぃ、馬連れてこいぃ」
そういうと一人の人がお馬さんを連れてきてくれた。
「わぁ、お馬さんも一緒に来てくれるの!ひめかお馬さんに乗ったことなかったからうれしい」
ひめかちゃんがお馬さんに触れると、お馬さんが
「よござんすよ。よござんすよ。ささ、乗ってくだしゃんせ」
お馬さんが喋った!
「大尉!大尉!馬が喋っております」
「うるせぇい。俺にも分からぁ」
ひめかちゃんはお馬さんの背中に乗ろうとしたけど手が届かない。
「あらね、あたしの背中にね、足を置くといいわね」
ヒツジさんが来てくれたのでひめかちゃんはヒツジさんを足掛かりにお馬さんに乗ったよ
「わぁ、高ぁい」
ひめかちゃんはびっくり仰天。
「さ、よござんすか、よござんすか。行きますよ行きますよ。」
そういうとお馬さんはぴゅぴゅ~んと走り出した。
ヒツジさんも隣をぴゅぴゅ~んと駆けていく。
ネコはひめかちゃんと一緒にお馬さんに乗ってごろ~ん
「んにゃあ、ラクチンだにゃあ~」
「大尉!大尉!あんなに早い馬を見るのは初めてです」
と遠くで聞こえるよ。
パカラッパカラっ。お馬さんがぱっぱか走る。ヒツジさんも一緒に走る
「すごぉい!風になったみたい」
ひめかちゃんは楽しそう。
「ごろにゃ~ん、すやすや」
ネコは眠っちゃった。
「でもね、山のね、向こうってね、どこかしらね。山はね、いっぱいね、あるのよね。どの山かしらね」
とヒツジさん
「分かりますよ!分かりますよ!イツセさんのお宅には伺ったことがありますよ」
とお馬さん
「本当、お馬さんありがとう。ひめかたちを連れて行ってね」
「よござんすよ、よござんすよ。」
お馬さんはぱっぱかぱっぱか。
しばらく駆けていると、向こうに明かりが見える。
「ささ、もうすぐざんすよ!もうすぐざんすよ!」
お馬さんはぱっぱかぱっぱか。
「ごろにゃ~ん。もう着いたかにゃ~ん」
ネコが起きた。
「おはようネコさん。もうすぐだって、イツセさんにヨリミチ様がどこにいるか教えてもらおう」
「あらね、あそこね、町みたいね。おウチがね、いっぱいね。あそこかしらね。」
ヒツジさんがお馬さんに聞いてみる
「あそこざんすよ、あそこざんすよ!ほらほら、着きますよ着きますよ」
町に着くといっぱいの人が集まってきた。
「イツセさんいますか?」
ひめかちゃんが元気に聞いてみる。
町の人はがやがやがや。
そこへ男の人が歩いてきた。
髪は短くお父さんみたいに優しい顔立ち。緑色の袴を履いている。
「やぁ誰かと思えばヒツジさんじゃあないか。」
町の人はがやがやがや。
「あらね、あなたね、どこかでね、お会いしましたかしらね。てんでね、記憶にね、ございませんね。」
「ははは、まぁ君は覚えていないだろうからね。こっちにおいで」
男の人が手招きしてる
「私たちイツセさんに会いたいの」
とひめかちゃん。
「僕がイツセだよ。君は?」
「私ひめか!ヨリミチ様に会いたいの」
ひめかちゃんが元気に答える。
「そうかひめかちゃん。うんうんヨリミチに会うんだね。どこにいるか教えてあげよう。とりあえずお家でゆっくりおし」
イツセさんはそういって、近くの藁ぶきのお家に入っていった。
「ついてってみるにゃ~ん」
とネコさん。
「よござんすよ。よござんすよ。アチシは外で待ってますよ」
とお馬さん。
ひめかちゃんとネコとヒツジさんは一緒にイツセさんのお家に入った。
お家に入ってみると小さなキッチンとテーブルと椅子が4脚ある。でも眠ったりする場所はないみたい。
「イツセさんはここに住んでいるの?」
ひめかちゃんは聞いてみた。
「いいや、ここはお客様が来たときのお家だよ。眠ったりお風呂に入ったりするところは別にあるよ。」
イツセさまは優しく答えてくれた。
「そうなんだ。お金持ちなんだね。」
「お金があるわけじゃないよ。ただ僕は血筋がゆえにみんなから優遇されているんだよ。優遇してくれるみんなに感謝さ。」
と、恥ずかしそうに答えた。
「ことろでね、ヨリミチ様はね、どこにね、いるのかしらね。」
ヒツジさんが急かす様に言った。
「あぁごめん。でもそんなに急がなくたっていいよ、物事にはタイミングがあるんだ。まぁお茶でも飲んでよ。」
そういうとイツセさまはお茶を出してくれた。ネコには黄色い色のお茶、ヒツジさんには緑色のお茶、そしてひめかちゃんには桃色のお茶を出してくれた。優しいさくらんぼのような香り。一口含むと花弁が開くように香りが広がっていく。馥郁とした芳しい心地がまるでお母さんに抱かれているみたい。
「すご~い。おいしいね。」
ひめかちゃんが横を見るとネコとヒツジさんもうっとりとしている。
「ゆっくりできたかい。そのお茶には心を安らげる効用があるんだよ。」
「そう言えば馬に乗ってた人がイツセさまは何でも知っているって言ってたけど本当に何でも知っているの?」
「何でも知っているってのは大げさだよ。僕にも知らないこともあるし、知らないことの方が多いくらいだよ。けれどどこかに向かおうとする人に対しては僕は答えを与えられるんだ。僕は『導く者』だからね。」
「みちびくもの?」
ひめかちゃんはちんぷんかんぷん。
「そう導くというのは行先を教えてあげるってことだよ。誰だって、どこへだって導いてあげられるんだ。」
「だったらひめかちゃんをヨリミチ様のところへ導いてくれるね!」
ひめかちゃんは元気いっぱい。
「もちろん可能だよ。でもあまり急ぎすぎては良くないよ。ヒツジさんがヨリミチに光の子を連れてくるって言ったのはつい最近だよね?まだヨリミチは自分が成し遂げなくてはならない場所に居ないんだ。だからまずはひめかちゃんは南西へ行くといい。この街から真っ直ぐ南に向かうと翁峠って場所に出るんだ。そこから西側の道を進んでいくと佐賀原に出る。そこからまっすぐまた南に進むと神社があるよ。まずはそこへ行ってごらん。君たちには会わなきゃならない者がたくさんいるからね。」
「えっと、まずみなみに行ってそこからにしに向かってさがばるってところからみなみに行けばいいんだね。ありがとうイツセさま。」
「んにゃあ~まだゆっくりしてたいにゃあ~。」
ネコはお茶をなめながらゴロゴロ。
「神社ね、佐賀原のね、みなみのね、神社ね。」
ヒツジさんはいつの間にか草をもしゃもしゃ食べている。
「さぁみんな行くよ~」
ひめかちゃんは元気いっぱい。
「ひめかちゃん。」
イツセさまが去り際に話しかけてきた。
「ひめかちゃんはとてもやさしい子だね。だから時には自分を責めてしまいたいときもあると思うよ。だけどね、大いなる光の御心は必ず君を照らしてくれるよ。いつかそれに気づく時がくるから、決してめげてはいけないよ。」
イツセさまはお父さんのような優しい声で言葉をくれました。
「うん、ありがとうイツセさま。ひめか頑張るよ」
「よござんすよ、よござんすよ。いざ西の翁峠に行きますよ!」
お馬さんも元気いっぱい。一行はイツセさまに手を振って西へ向かった。
※※※
神社の祓いどころに長い髪の女の人が踊っている。
「わぁ、あの人お顔が牛さんだぁ」
ひめかちゃんは気づいた。
「にゃあ〜牛鬼だにゃ〜食べられるにゃあ〜」
ネコさんは大あわて。
「あんらぁひどぉい。わたくし牛鬼じゃなくってよぉ。わたくしクダンって言うのよぉ。牛鬼じゃあ、なくってよぉ」
牛のお顔の女の人が言った。
「クダンさんって言うの?ここで何してるの?踊ってるの?」
ひめかちゃんが尋ねてみる、
「わたくし人を待っているのよぉ。わたくしの言葉を求めている人を待っているのよぉ。わたくしの言葉は必ず叶うのよぉ。あなたは何かお願いなくってぇ?」
クダンさんが聞いてきた。
「あらね、お願いならね、あるわよね、ヨリミチさまにね、会いたいのよね、私たちね、でもね、どこにいるんだかね、わからないんだわよね。」
ヒツジさんが答えた。
「よござんすよ!よござんすよ!どこにだって駆けて行きますよ!どこに行けばいいのか分かればね!よござんすよ!よござんすよ!」
馬さんは元気いっぱい。
「ひめちゃんもどこだって行くよ!ヨリミチさまを探さなくっちゃ!」
ひめかちゃんも負けじと元気いっぱい!
「あんらぁ?ヨリミチさまに会いたいのねぇ?ここにはどうやって来たのぉ?ヨリミチさまはここからもっと東に行かなきゃと思うわよぉ」
クダンさんが教えてくれた。
「にゃ〜東にゃ?今東から来たばっかりにゃ。イツセさまはここに行けって言われたにゃ〜ん」
ネコさんはクッタクタ。
「あんらぁ。ここはイツセさまの弟さんのお社よぉ。ヨリミチさまに会いに行くならわたくしも一緒に行こうかしらぁ?あなたたちにはわたくしの言葉がきっと必要だと思うからねぇ。」
「え!クダンさんも一緒に来てくれるの!じゃあみんなで行こう!クダンさんも教えてくれてありがとう!東に行こう。」
ひめかちゃんは元気いっぱい!
「もうくたくたにゃあ〜ん」
ネコさんは甘えてる。
「いやね、ネコさんね、あなたね、ずっとお馬さんのね、上でね、寝てるでしょうね。疲れるはずね、ないのね。」
とヒツジさん。
「そんなことにゃいにゃあ。お馬さん乗ってるのも疲れるにゃあ〜」
「よござんすよ!よござんすよ!乗らなくったってよござんすよ!」
「そんにゃこと言うなにゃあ〜」
みんな楽しそう。
「よ〜し!東に向かおう!」
元気いっぱいひめかちゃん。みんな、おぉ〜と言って東へ駆け出した。
※※※
東に向かってひめかちゃんたちはパタパタ走った。
「はぁはぁね、ちょっとね、疲れたのね。少しね、休めないかしらね。」
ヒツジさんが疲れてる。
「ヒツジさん大丈夫!みんなー少し休もう」
ひめかちゃんが言うと、お馬さんとクダンさんが止まってくれた。
「よござんすよ!よござんすよ!さぁさ、休みましょう」
ネコはお馬さんの背中でぐっすり寝てて、目を覚ました。
「んにゃあ〜なんで止まったにゃあ〜。心地いい揺れだったにゃあ〜ん」
ネコは目をこすってる。
「ネコさん!ヒツジさんが疲れちゃったんだよ!ネコさんはずっと寝てたね」
ネコはあくびをしてる。
「あんらぁ?ねぇあそこ見てぇ。泉があるわぁ。あそこで休みましょおぅ?」
クダンさんが指差す方をみると、綺麗な泉がある。真ん中からはお水が湧いているようだった。
「あらね、たしかにね、のどがね、かわいたわね」
ヒツジさんが呟きながら泉の方へ歩いていく。
ネコもひめかちゃんもお馬さんの背中から降りて自分で歩いていく。
ゴクゴク。
「わぁ、美味しいねぇ。」
ひめかちゃんはびっくり。
「美味しいわね、生き返るわね、のどがかわいた時はやっぱりお水だわね。」
ヒツジさんもゴクゴク。
「美味しいにゃあ〜生き返るにゃあ〜」
ネコさんはペロペロとお水をなめているみたい。
「この泉にはひめかちゃんに会いたいって人が来るんじゃないかしらぁ」
クダンさんがお水を飲みながら言った。
「ひめちゃんに会いたい人がいるの?ヨリミチ様かなぁ」
ひめかちゃんはちんぷんかんぷん
「ひめかちゃんに会わなきゃいけない人が来ると思うわぁ。見える気がするのよぉ。その人もヨリミチ様のところに行きたいって言うと思うわぁ」
クダンさんが続ける
「ひめかちゃあん、ひめかちゃんはヨリミチ様に会って何するのぉ?」
ひめかちゃんは少し考えて、
「う〜ん…わかんない。ヨリミチ様がひめちゃんに会いたいって言ってるんだって。だから会いに行ってあげるの!」
ひめかちゃんは元気いっぱい。
「あ、それね、あのね、ヨリミチ様はね、光の子を待っているのね、そのね、光の子がね、ひめかちゃんなのよね。」
ヒツジさんがお話に気付いて教えてくれた。
「光の子?ひめちゃんお父さんとお母さんの子だよ?」
ひめかちゃんはまたまたちんぷんかんぷん。
「ちがうにゃ、ひめかちゃんは光をもたらす子にゃ。だから光の子って言われるにゃ」
金色のネコが教えてくれた。
「光をもたらすってどういうことかなぁ?」
ひめかちゃんはやっぱりちんぷんかんぷん。
「あんらぁ?あなたが光の子なのねぇ。それじゃあアタシが一緒にいる意味も分かるわぁ。それより誰か来るわよぉ。」
クダンさんが言うと、泉の向こうの方からガサゴソガサゴソ。何かがやってきた。
土色の脚が右に四本左に四本。四本の後脚で歩いてる。お顔は人の顔だけど、尻尾があってそれが二つに分かれてウネウネうごめいてる。
「ぎにゃあ〜土蜘蛛にゃあ〜!食べられるにゃあ〜!逃げるにゃあ〜!」
ネコが騒いでる。
「なんだぁ?お前ら。」
土蜘蛛がこっちをギロリ。
「あなたがひめちゃんに会いたい人なの?」
ひめかちゃんは聞いてみた。
「にゃあ〜違うにゃ土蜘蛛にゃ!怖いにゃあ〜ん」
「だれだぁお前ら。俺様の泉でなにしてんだぁ」
土蜘蛛は怒ってるみたい。
「んにゃあ〜ごめんなさいにゃあ〜。ゴロにゃ〜ん」
ネコは可愛い声で鳴くと、ひめかちゃんの足元で丸まっちゃった。
「あんらぁ?あなた、尻尾が二つなのねぇ?土蜘蛛さんったら尻尾は一つじゃないかしらねぇ?」
クダンさんが言う。この土蜘蛛には尻尾が二つある。それはクネクネ蛇みたいに動いてる。
「すご〜い!しっぽが蛇さんだぁ!カッコいい〜!」
ひめかちゃんはびっくり!すると土蜘蛛は照れ臭そうに
「そ、そうかなぁ?カッコいいかなぁ?」
とお顔をポリポリ。
「うん!カッコいいよ!蛇さんと仲良くしてるんだね!すごいよ!」
ひめかちゃんはお目目をキラキラさせて土蜘蛛を見てた。
「かっこいいかぁ〜、言われて悪い気はしないなぁ。よし!お前らもこの泉の水を飲んでいいぞ!これを飲むと力が湧いてくるんだ」
そう言うと土蜘蛛もお水をゴクゴク。
「あらね、思ったよりいい人ね。いやいい人じゃなくていい土蜘蛛ね。」
ヒツジさんはそう言いながらお水をゴクゴク。
「よござんすよ!よござんすよ!土蜘蛛さんも一緒に行くざんすよ!」
お馬さんの言葉に土蜘蛛はびっくり。
「どこに行くってんだぁ?俺はこの山から出ねぇぞぉ。」
「どうしてこのお山から出ないの?」
ひめかちゃんは聞いてみた。
「俺は土蜘蛛なのに尻尾が蛇だからみんなに仲間外れにされてんだ。土蜘蛛は人にも獣にも嫌われてるから俺にはもう居場所はねぇんだ。ただこの山のこの泉にいる女神様だけは俺を受け入れてくれるんだ。俺は一人ぼっちなんだ」
土蜘蛛はしゅんとして寂しそう。
「仲間外れはダメだよね!わかった!ひめちゃんがお友達になってあげる!」
ひめかちゃんはポンと手をたたいた。
「にゃあ〜ん。ひめかちゃん怖くないにゃぁ〜?」
ネコが聞いてきた。
「うん!怖くなんてないよ!だって土蜘蛛さんはお水を飲んでもいいって言ってくれたもん!優しいよ」
ひめかちゃんがそう言うと土蜘蛛はポロポロと泣き出した。
「そんな風に言われるのは初めてだよ。俺もお友達にしてくれるのか。うれしい、うれしいよ」
とポロポロポロ。
すると、涙が泉に落ちて、泉が輝き出した!
キラキラと光る中から女神様が現れた。
「わぁ!女神さまだぁ!」
ひめかちゃんはびっくり。みんなもびっくり。
「ダビさん。良かったわね。あなたにもお友達ができて。ひめかちゃんありがとう。あなたはこの子の心に光りを宿してくれました。ありがとう」
女神様は優しくそういった。
「うん!ひめかちゃん仲間外れはしないの!みんなと仲良くするってお父さんとお約束してるんだぁ」
ひめかちゃんはえっへん!
「ありがとうひめかちゃん。あなたの優しさできっとみんなが救われるわ。だからあなたにはこれをあげますね。」
そう言うと女神様はひめかちゃんに一本の杖をくれた。
杖は両端が丸くなっていて、綺麗な石が挟まってる。
「わぁ!キレイ…」
ひめかちゃんはうっとり。
「あらね、ステキな杖ね。優しくね、輝いてるわね」
ヒツジさんもうっとり。
「あんらぁ?これってマガタマじゃなぁい?きっとステキな力が宿っているわぁ」
クダンさんもうっとり。
「キレイだにゃあ〜。ツンツンしたいにゃあ〜」
ネコは小さい手で石をツンツン。
「さぁ、ダビさん。あなたも行きなさい。お友達を助けてあげるんですよ。」
女神様が土蜘蛛に言った。
「おぉ!俺も一緒に行くぞぅ!ひめかちゃん」
土蜘蛛は元気いっぱい。
「俺はダビって呼ばれてるんだ。よろしくなみんな」
「あらね、ダビってね、蛇の尻尾ってね、意味だわね。そのまんまだけどね、ステキな名前ね」
「よろしくね!ダビくん!」
ひめかちゃんはダビと握手をした。
「よござんすよ!よござんすよ!さぁさ疲れも取れたんで、東に向かいますよ!」
お馬さんがそう言うと、ひめかちゃんとネコはお馬さんの背中に乗った。
「よ〜し!ヨリミチ様のところへ、しゅっぱ〜つ!
※※※
やがて大きな山を越えると煙や火と鉄の錆びたにおいがしてきた。
「近くにね、人がね、たくさんね、いるみたいね。」
とヒツジさんが言うとダビは目を閉じて鼻を動かしながら
「クンクン、これはセンソーの匂いだ。センソーの匂いがするぞ。」
「センソーってなぁに?」
ひめかちゃんはちんぷんかんぷん。
「センソーってのは人と人との戦いのことさ二つの考えがあるとぶつかりあっちまうことがるんだ。それで人は殺しあいをしちまうのさ。」
とダビがいう。
「ふにゃ~ん。殺し合いなんて怖いにゃ~ん。」
とネコ。
「あんらぁ?でもぉ戦わなくちゃならない時もあるわぁん。」
とクダンさん。
「確かにそうだな、でも本当に殺しあわなきゃならないかを考えずにセンソーを始めるやつだっているさ。だいたいがそんなヤツさ。」
「あらね、でもね、ヨリミチ様はね、ブシだからね、戦わなきゃね、ならないことの方がね、多いわね。」
「とにかく!そのセンソーの中にヨリミチ様がいるんだよね。じゃあ行ってあげなくちゃ。だってヨリミチ様に会う為にはるばる来たんだもんね。」
ひめかちゃんは元気いっぱい。
「よござんすよ、よござんすよ。どこまでだって駆けますよ。」
お馬さんも張り切ってる。
山の裾野にブシたちが陣を張っている。中にはいっぱいのけがをした人いるみたい、するとその中から緑色の陣羽織をまとったブシが駆けつけてきた。
「んにゃ~あ。誰か来るにゃぁ~ん。」
「ひかえおろう、ひかえおろう。我は犬養刑部が子、舎人なり。方々異形なれどその御子はよもや光の子かと心得る。相違ないか。」
「んにゃ~あ。何言ってるかわからないにゃあ~ん」ネコはちんぷんかんぷん。
「誰だろう?でもひめかが光の子なんだよね?だからヨリミチ様に会いに来たんだよ。」
ひめかちゃんもちんぷんかんぷん。
「あらね、誰かとね、思ったらね、トネリさんね、久しぶりね。」
とヒツジさん。
「この人はトネリって名前で、ひめかちゃんが光の子かどうかを確認しに来たんだって。」
とダビが教えてくれた。
「言い回しが面倒くさいにゃあ~もっと分かりやすく言うにゃあ~ん。」
「よござんすよ、よござんすよ。この御方が光の子ざんすよ。」
「これはいずこかの山にて会いたる草色のヒツジ。光の子を導いて来るとはこれ吉報なり。殿へ
伝え給え。」
ハッと言ってお供の一人が走り去っていく。
「トノってなあに?」
ひめかちゃんはまだちんぷんかんぷん。
「あらね、トネリさんのね、トノはね、ヨリミチ様よね。」
とヒツジさん。
「じゃあヨリミチ様はここにいるんだ!やっと会えるね。」
ひめかちゃんは元気いっぱい。
「光の御子殿、ご案内仕る!」
と、トネリさん。
「み、、、ごあん、、、つかまつ、、、ってなあに?」
ひめかちゃんはまだまだちんぷんかんぷん。
「トネリさんがぁ、ヨリミチ様のところにぃ、連れて行ってくれるって言っているわぁん。」
とクダンさん。
「本当!良かった、ありがとうトネリさん。」
陣の奥、帷幕の中に床几に座った男の人と左右に一人ずつ立った男の人がいた。左の人は額に角があり、右の人はお尻から尾が見える。
「殿、予言の光の子が参られました。我が方の勝ちにございますぞ。」
とトネリさんは座った人の前に膝をついて言った。
「トネリさんがトノって呼んだってことはこの人がヨリミチさまなのね。」
ひめかちゃんは何だか嬉しくなった。
「予言が本当だとしてこの子が来たことが勝利につながるとは考え難いものですな。」
と右の人。
「光の子よ。」
右の人がひめかちゃんを向いて言った。
「我は岸民部景礼、みなからはミンブと呼ばれておる。」
「名前のどこにもないのにミンブってにゃんで呼ばれてるんだにゃ・・・」ネコは思わず冷や汗。
「ミンブってのはね、通称なのよね、漢字で書くとミンブとも読むのよね。」
「ひめかちゃんまだ漢字わかんない。」
ひめかちゃんはしょんぼり。
「して、光の子よ、そちは何をする為にここに来たるか。」
とミンブさん。
「何をしに?ヨリミチさまがひめかちゃんに会いたいって言っているって聞いたから来たんだよ。なんでなんだろう?」
ひめかちゃんはやっぱりちんぷんかんぷん。
「あらね、確かにね、光の子はね、ヨリミチ様と会わせるってね、聞いてはね、いたけどね、会ってね、何するかはね、知らないわね。」
「なんだぁ、これじゃあ要領を得ねぇな。」
と左の人。
「それは佐々治仁、ゲキって呼ばれてらぁ。」
「うにゃあ~。またなんでゲキなんだにゃ~あ。」
「ゲキってのは昔俺が就いてた役職の名前さ。
「やくしょく?ついてた?」
「ようするにね、仕事をしてたってね、ことなのよね。」
「お医者さんのことを先生って呼ぶのと一緒?」
「ん~とね、微妙に違うけどね、それでいいわね。」
「んで、結局戦況に関わることはなしっと。明日どうやって戦うかを考えなきゃな。」
とゲキさん。
「この子らを守ってか?」
とミンブさん
「仕方ねぇだろ予言だと光の子が戦いを終えるんだぜ?守れませんでした~じゃねぇだろうよ。」
とゲキさんが少し怒っているみたいに言った。
「そもそもこの子が光の子という確証もあるまい。トネリが言っていたことを踏まえてもヒツジ以外の共通点がない。来て何も出来ぬ子一人に異形二匹にヒツジ一頭猫一匹では信用もできまい。ここは託児所でもなければ寺子屋でもない、戦場にこの子のいる場所はないのだぞ。」
ミンブさんがくどくどくど。
「くどくどうるさいにゃあ」
「お、猫助、気が合うな。俺もそう思うぜ。」
とゲキさん。
「まぁ俺たちも変に戦力扱いされても嫌だけどな。人間のセンソーなんて大概が小さい理由だろ。巻き込まれてちゃかなわねぇや。」
とダビが言うと、トネリさんが刀に手をかけてものすごく睨んできた。
「小さい理由とはどういう意味か土蜘蛛。ことと次第によっては斬り捨てる。」
「自分が戦う理由も他人に聞かなきゃわからねぇのか?こういうところだよ人間の下らねえところはな」
ダビが睨み返す。
「こらぁ!喧嘩はダメだよ。」
ひめかちゃんが二人の間に入ってぷんすかぷん。
「おいおい落ち着けよトネリ、そいつとやりあうとどっちもただじゃすまねぇぜ。分かってんだろ。」
とゲキさん。
「それにしても土蜘蛛なんて初めて見たぜ。思ってたより格好いいな。な、ミンブ。」
ゲキさんはマジマジとダビのことを見てる。ダビも満更でもなさそう。
「伝え聞いていたものよりも蜘蛛感が低いとは思うが、あまりにも異形すぎて言葉にできぬ。」
とミンブさん。
「言葉にできぬとか言いながら言葉にしてるにゃ・・・。」
「ひめか殿」
ヨリミチ様がつぶやくとみんなが黙って注目した。
「私はキビノヨリミチと申すもの。この度は遠路はるばる足をお運びいただきかたじけない」
そういうとヨリミチ様は深々と頭を下げた。
「しかし情けないことに私は未だに貴方をどう迎えて良いかがわからぬ。この戦いもどうすれば終えられるのかもわかっておらぬ未熟者。答えが出るまで我らが陣営にてお待ちいただく形となろう。」
ヨリミチ様はちょっとしょんぼり。
「ヨリミチ様たちはどうして戦っているの?」
とひめかちゃん。ヨリミチ様は西にある高い高い山を指さして、
「あそこに山がある。あれは私どもの国人にとって最も神聖な山。日輪のおちる山である。彼の山の頂からみれば遠い海に沈む日が見える。その景色に対して山頂より儀礼をおこなうのが我が国の祭儀であった。されどそこに至る道に鬼どもが来りて居座っている。私どもは彼の鬼どもと戦って居る。」
「なんだ下らねぇ話だな。」
とダビが言う。キッと睨みつけるトネリさんをゲキさんがまぁまぁといさめる。
「道を通してもらえばいいだけだろ?わざわざ追い出すこともねぇ、それにあれたけ遠ければ回り道したっていいじゃねぇか。センソーする理由なんてねえな。」
トネリさんがまたまたすごく怒って、
「先に道を奪いたるは鬼らぞ。我らが皇道を塞ぎたるは万死に値する故に此度の征伐である。鬼らの血を以て道を開かん。」
まぁまぁとゲキさんがいさめている。
「通してもらおうにも鬼らがそれを妨げているのである。我々としても道の確保こそが目的なれどそれを妨げられた上に刃を交える形となってしまい最早収拾がつかぬ。奴らを討つ以外に手段はなかろう。」
とミンブさん。
「あんらぁ?なんでぇ回り道はしないのぅ?」
と言うクダンさんにミンブさんが答える。
「回り道をしようにも南は海、北は山々が連なっており踏破は容易ではない。神祇官らを率いて回ってしまえば辿り着くのに時間と費用が掛かりすぎる。第一に鬼らに道を妨げられたので回り道しますと言えばお上が許すまいよ。」
「だから殺すってのか。おこがましいな。」
ダビが言うとまたトネリさんが怒る。
「そう挑発しねぇでくれよ、土蜘蛛さんよ。俺らだって戦いたくて戦っているんじゃねぇんだ。立場上避けられねぇって話さ。」
ゲキさんは落ち着いた感じでそういった。
「どうして鬼さんたちは道を通してくれないんだろう?」
ひめかちゃんはつぶやいた。
「んにゃ~あ。それは鬼さんたちに聞かなきゃ分からないにゃあ~。」
「よおし!鬼さんたちに聞きに行こう!」
ひめかちゃんは元気いっぱい。
「よござんすよ、よござんすよ!鬼さんたちのところへ駆けますよ。」
「鬼のところへ!?光の御子になにかあってはなりません。鬼めらは自分たちが邪なものと分かっておらんのです。およしください奴らは戮滅せしめねばならんのです。」
とトネリさん。
「でも鬼さんたちが何考えているかは鬼さんたちに聴かなきゃ分からないよ。それにケンカは良くないよ!」
ひめかちゃんはぷんすかぷん。
「鬼の考えか・・・。」
ヨリミチ様はあごを触りながらつぶやいた。
「我々は皇道を通って当然と考えていて。故に鬼らが道を開けぬことに怒り、そして戦った。確かに鬼らがなにゆえ道を開けぬかは知らぬな・・・。」
「うん!だから聴きに行こう!そうしたら何か答えが見えるかも!」
ひめかちゃんは元気いっぱい。
「危のうございます。」
とトネリさん。
「俺が行こう。」
とゲキさんが前にでた。
「光の子のお供をさせてもらえるなんて栄光はそうはないからな。最も土蜘蛛に牛鬼がいればかの鬼どもでも怖くはねぇだろうが念のためによ。」
それならとトネリさんはちょっとしょんぼり。
「ゲキ殿、その子が光の子とは限らんぞ。場合によっては犬死である。この子らだけで行かせればよいのでは。」
とミンブさん。やれやれといった表情をしてゲキさんはこう言った。
「戦を始めて早半月。殺す殺されると殺伐としていた中に颯爽と現れて戦を止めようとしている子だぜ?光の子か否かに関わりねぇよ。それに子供が頑張ろうとしているんだ、大人ならしっかり見守らなきゃダメだろうよ。ねぇヨリミチ様。」
ヨリミチ様はうなずくと、
「我々が行くと向こうも警戒しよう。かといって護衛なしというのも危うい。ゲキ、頼むぞ。」
おうと応えるゲキさん。
「ま、俺がいれば護衛なんていらねぇがな。」
とダビが言う。
「ずいぶんと自惚れがすぎるな、土蜘蛛。」
とミンブさん。
「尾人なら知ってんだろ。俺は愛宕山の土蜘蛛だぜ?」
というダビの答えにミンブさんは目をぱちくりさせて、
「なるほど、ゴンゲンの一角か。ならば確かにゲキ殿はお供だな。」
「んにゃあ~あ。ダビは有名にゃ~ん?」
「まぁ、そのすじにはな。」
「とにかく!鬼さんたちのところに出発~!」
ひめかちゃんはえいえいおー。
※※※
ヨリミチ様の陣のある山を下って二つの丘を越えたところに鬼たちの砦がある。丘を越えるには回り道するしかないみたい。
「よござんすよ、よござんすよ、回り道しますよ。」
お馬さんは元気いっぱい。
「しかしね、トネリさんね、ずいぶんね、イライラね、していたのね。」
とヒツジさんがつぶやいた。
「んにゃ~あ。トネリのやつ怖かったにゃ~ん。」
そんな話をしているとゲキさんが面白そうに話してくれた。
「トネリは一本気すぎるだけだよ。あいつはヨリミチ様に都からずっと従ってきた忠義ものだからな。鬼退治の勅命もあいつは受けるところを見ているからな。忠誠心が厚すぎて堅苦しいだけでいいヤツだぜ。」
「忠誠心だけでセンソーに勝てたら世話ねーぜ。」
とダビがつぶやく。
「戦況はどうなってんだ。見た様子だとずいぶんにらみ合っているわけじゃねぇだろ?」
「こと戦いにおいては俺たちの方が強い。一対一でやりあえば概ね技術では負けてない。だが武器が違う。」
ゲキさんが応える。
「明らかに鉄が違うんだ。俺たちの刀は奴らの盾を斬れないがやつらの刀は俺たちの鎧も砕くんだ。陣立てだってそうだ。奴らの構える砦も明らかに強固なんだ。だから攻めあぐねてる。やりあえば負けない、でもやりあえなきゃ勝てない。おまけに強い刀に硬い鎧、弩に砦とあっちゃ戦い方がわからねぇんだ、実際な。」
ゲキさんは悔しそう。
「持ってる技術が違うんだろ。きっと鬼たちは強い鉄じゃなきゃ生きていけないような世を生きてきたのさ。戦い方もわからねぇのに戦わなきゃならねぇなんて同情するぜ。」
ダビが言うとゲキさんはフと笑った。それは少し嬉しそうだった。
二つ目の丘を越えると山が切り立った崖のようになっている。よく見るとそれは高く積まれた石だった。
「すっご~い!お城だぁ~!」
ひめかちゃんはびっくり。
「なるほどこりゃ技術の時代が違ぇや。逆に負けてないのがびっくりだな、おい。」
とダビが笑いながら言う。砦に入るには山の向こうまでぐるっと回らなきゃいけないみたい。
「お山全部がお城なんだね。」
ひめかちゃんが言うとダビが
「これは山を城にしたんじゃなくて城を山の形に作っているんだよ。周りの土を掘り起こしてその堀に沿って石を積んで、堀を広くしたからまるでここが山みたいに見えるのさ。
見てみな、さっき回った丘と比べたらこの城も高いところにはないだろう。」
「本当だ!すごいね」ひめかちゃんはまたまたびっくり。
「でも不思議じゃぁなぁいぃ?こんな短期間でできっこないわぁん。いったいいつから作ったのかしらん。」
「俺たちが陣を張った時にはもう砦はあったぜ。」
とゲキさん。
「いったい誰と戦うために建てたんだろうな。」
ダビがつぶやく。
「とにかく門に入らなくっちゃ、鬼さんたちに話を聴かないとね。」
ひめかちゃんは元気いっぱい。
「よござんすよ、よござんすよ。」
お馬さんも元気いっぱい。
門のところまで来てみると黒い鬼が二人大鉈を持って立っている。
肌は真っ黒で目の白い部分と歯だけがまるで光っているようだった。
「なんだぁお前らは?」
片方の黒鬼が言った。
「お前らが侵略者だな、殺してやるぞ!」
もう一方の黒鬼が言うと二人は一斉に襲い掛かってきた。
「きゃあ!」
ひめかちゃんはビックリぎょうてん。
するとダビとゲキさんがサッと前に出た。
ダビは左の鉤爪で鉈を受けて、右前足で黒鬼のお腹を蹴った。ウッと言って黒鬼は倒れる。
ゲキさんはサッと剣を抜くと鉈の持ち手の打ち込んだ。黒鬼が体勢を崩して両手を上にした瞬間、目にもとまらぬ速さで黒鬼の脇腹を柄で突く。ウッと言ってこっちの黒鬼も倒れる。
「斬り伏せることもできたろうに。」
とダビが言うとゲキさんは
「子供の前でそんなことはしねぇよ。」
と返した。
「上出来だ。」
と呟いたダビはどこか嬉しそう。
「あんらぁ~二人とも倒しちゃったら門が開かないわぁん。何してんのおぅ。」
とクダンさん。
「げ、確かにそうだな。」
とダビは思わず冷や汗。
「ぜんぜん上出来じゃないにゃあ~ん。」
「あらね、あっちからね、誰かね、来るのね。」
とヒツジさんが見ている方を見ると鬼が一人こっちに歩いてくる。
肌は黄色くて目は緑色。身長のわりに手が長くて指もすごく長い。
「あっ使者っさま、使者っさまでしょかねー。」
黄鬼がたどたどしく言う。
「ししゃ?そうさ、俺たちは使者としてきたんだ。頭にあわせてくれよ。」
とゲキさん。
「あっ、こっちっです。こっちー。こっち着いて来てくださいねー。」
黄鬼はそう言うと歩き出して門の横の扉を開けた。
「こっちの扉を使うんだ。門じゃないんだね。」
ひめかちゃんはまたまたびっくり。
砦の奥に行くと、大きな机が置いてある。その周りには六人の鬼たちが立っている。一番左の鬼は肌が真っ赤で目と髪は黒い。なんだか黒目が他の鬼より大きく見える。口は耳まで裂けていて頬が二つに分かれているよう。
その奥に肌の真っ白な鬼がいる。目は碧く髪は金色。身長がひめかちゃん二人分よりも大きい碧い目でジッとこっちを見ている。そのかたわらには黒鬼が片膝をついて座っている。頭は白鬼に向けて下げられている。
一番右には案内してくれたのとは違う黄鬼がいる。この鬼は目が黒い身長もお父さんくらいだけど指がすごく長くて、よく見ると関節が四つあるみたい。
その奥にはまた違う白鬼がいる。目はやっぱり碧いけど、この鬼の髪の毛は茶色い。背がとても高い。
そして机を挟んだ向こう側に一人だけ髪飾りをした鬼がいる。肌の色はやや黄色いけれど、どちらかというとひめかちゃんと同じような色。目の色が緑がかった青でそれ以外は人と変わりない。長い髪が川のようにうねっていてとてもきれい。
「諸君が使者かね、私が一族の頭領だが何の要件か聞こう。」
髪飾りをした鬼が言った。
「ヨリミチ様たちが道を通りたいって言っているのにどうして鬼さんたちは通してくれないの」
ひめかちゃんは聞いてみた。
「俺たちは戦いたい訳じゃない。この道を通てくれたら何もセンソーをしなくてもいいんだ。別の場所に住んじゃあくれねぇか?」
ゲキさんが続けた。
「なにゆえこの道を通らんとするのか。」
右の白鬼さんが言った。
「神山への参拝の経路なのさ。」
とゲキさん
「されどこの地は我々の先祖がようやくたどり着きたる約束の地。なれば決して動くことまかりならん。」
と右の黄鬼が言った。
「どういういみ?」
ひめかちゃんはちんぷんかんぷん。
「鬼たちのおじいさんのおじいさんの・・・昔の人がここまで旅してきたんだって、だからどきたくないってさ。」
とダビが教えてくれた。
「あのぉ、でもぉ、争いになるならぁ、移住したってぇ、いいとぉ、思うんですよぉ。」
と赤鬼さん。
「おめぇはだまってろ。まったく鬼みてぇな顔して争い嫌いなんて気持ち悪いんだよ。」
と左の白鬼。
「そもそもこの土地を所有しているのは我々だ。だのにそこを通せなどと顔の面が厚すぎるだろ。勝手に陣なんざ張りやがって、さっさと殺されにかかって来いよ。」
左の白鬼さんはすごく不機嫌そう。かたわらで膝をついている黒鬼さんがときどき不安そうな目を向けている。
「土地の所有だと?そもそもこの国は全て帝のものだ。あんたたちが所有を主張してもここが帝のものであることは変わらんぞ。」
と、ゲキさんはちょっとむっとしたみたい。
「いやいや待て待て。土地の所有がどうのこうのと話が変わってらぁ。兎にも角にもこっちは山までの道を通してくれっていうのが主張だろ?論点変わってんぜ。」
とダビ。
「しょゆうってなに?」
ひめかちゃんはちんぷんかんぷん。
「しょゆうってのは誰の持ちものかってことよぉん。鬼たちはここが自分たちの土地だって言っているのよぉん。」
「えーそうなの。みんなにとって大事なんだからみんなのものでいいじゃん。ケンカは良くないよ。」
とひめかちゃんが言うと右の白鬼が
「そうはいかない。」
とくちを挟んできた。
「昔ここよりも西の海の向こうに我々の先祖は辿り着いた。そうしてそこを永住の地としたが今の君たちのように「道を通してほしい」と言う者らがいた。そして彼らに通行を許可した途端、彼らは我々の土地を奪ってしまった。君たちも彼らと同じではないとは言えない。我々はもう他者を信用することは出来ないのだ。この場所でメシヤを待つ。」
とても静かな口調で、でもはっきりと白鬼は言った。
「なるほどね、前例ありか。そりゃあ信用されねぇわなぁ。」
ダビがつぶやく。
「四の五の言わずに斬りかかって来いよ。腰にぶら下げてんのは飾りかよ。」
と左の白鬼がゲキさんを指さして言ってきた。
「刀は抜かねぇに越したことはねぇのさ。安い挑発は弱さの証だぜ?」
とゲキさんが返す。
「あぁ?」
と白鬼が大きな声を上げた。
「やめたまえこの場所は戦場ではない。不要ないさかいはよせ。」
と頭鬼が言うと白鬼はチッと舌打ちをしてかたわらの黒鬼の頭を蹴った。
「貴方がたの要望はわかった。だが彼が言う通り我々の先祖は以前西の地で不当な扱いを受けてきた記憶がある。ゆえに道を開けることは出来ない。我々はここでメシヤを待つ。」
頭鬼が調和の取れた口調でそう言った。
「さっきから言ってるメシヤってにゃににゃ?」
「飯屋ってぇと飯を食わせてくれる人のことだろ。あいつら貴族しか相手しねぇからなぁ。」
とゲキさん。
「あんらぁ?メシヤってメシアのことじゃないのぉん。メシアってぇ光の子のことだわぁん。」
とクダンさん。
「あらね、だったらね、ひめかちゃんがね、光の子だからね、もうね、この場所にね、いる必要ないわね。」
と、ヒツジさんはいつの間にか草をもしゃもしゃと食べながら言った。
「光の子?その子がメシアだというのか?」
黄鬼が問う。
「うん、ひめかちゃん光の子なんだって。」
ひめかちゃんはえっへん。
「しかし道を譲れと言われただけで君をメシアとは認められぬ。メシアは我々に救いと生きる意義を与えてくれる。今ここで道を開けることが救いにつながるとは考えられぬ。すまぬがあなた方の要望は聞き入れられない。」
頭鬼さんはちょっとしょんぼりしながら言った。
「とりあえず一度戻ると良い。」
と右の白鬼が言って、出口まで案内してくれた。案内の途中白鬼さんは少し寂しそうに、
「力になれなくて済まない。我々にも先祖が残してくれたという立場がある。道を通すだけなら何も問題はないんだが信用をする理由が我々にはないんだ。」
「あっちの白鬼とは随分違うにゃ。おだやかだにゃ。」
とネコが思わずつぶやいた。
「我々白色人はずっと昔に遠い西の帝国で王だったのだ。無論先祖が国を捨てて旅立った時点で身分などないのだが、少数の自分たちが王だと考える者が最近増えてきてね。もっとも頭領が神の子の子孫だということを疑う者はいないがね。」
「鬼だ鬼だと聞いて来てみりゃ、人間同士のいさかいじゃねぇかよ。」
ダビがつぶやく。
「でもどうして鬼さんたちはここに来たんだろう?もともと住んでいる場所じゃダメなのかな?」
ひめかちゃんは首をかしげた。
「そうだにゃん。家から出なきゃいいんだにゃん。ごろにゃ~ん」
ネコはお馬さんの上でゴロゴロ。すると白鬼が足を止めて
「我々は神を信じるのをやめたのだ。」
「あんらぁ、神様って本当にいるのよぉん。」
「それは知っている。」
白鬼が続ける。
「だがだからと言ってすべての人が神に救われるわけではない。ならば神に頼らずとも己らの力で人々への救いを求めようと考え『神の子』はその信徒と共にここに訪れたのだ。」
「なるほどねぇん。人としての道を示したのねぇん。」
「だがその結果西では裏切られ土地を奪われた。んでもって今ここじゃセンソーしてるってことか、笑えない冗談だな、おい。」
「その通りだ。」
白鬼はしゅんとしてる。
「そっか、でもそれじゃ鬼さんたちも戦いたくて戦っているんじゃないんだね。なんか安心しちゃった。」
「どうして安心にゃ?」
「だって鬼さんたちがトネリさんやミンブさんの言うように人を殺すことしか考えてなかったらもうこのセンソーは終わらなかったかもしれないもん。ちゃんと理由があって、守りたいものがあって、だけどそれが譲れないものだからみんな戦っているんだね。」
「そうだね。けれどその譲れないものがどうしても妥協できないんだよね。僕らも、きみたちもね。」
砦の外に出て白鬼とバイバイしたひめかちゃんたちは話し合いました。
「やっぱりセンソーは終わらせたいね。もう殺し合いなんてしたくないからな。」
「回り道すりゃいいんだがなー。やれ時間だのやれ費用だの頭のいいヤツらの考えることにゃ時代は関係ねーな。」
「ひめかちゃんはぁ、どおぅ思うのぉん?」
「ケンカは良くないよ。だからセンソーは止めたい。鬼さんたちに信用してもらう方法はないかなぁ。」
「そもそも道さえあればいいにゃあ~ん。どうして通じないにゃあ~ん。」
ネコはじたばた。
「ねぇねぇ都はどっちにあるの?」
ひめかちゃんが言うとゲキさんは北東を指さして
「あっちだぜ。だいたいな。」
するとひめかちゃんはポンと手を叩いて
「あーわかった!だったらあの山を切り開いて道を造っちゃえばいいんだよ。それなら鬼さんたちも不安にはならないよ。」
「あらね、それならね、センソーもないしね、鬼さんたちのね、領地もね、守れるわね。」
「あんらぁ、でんもそぉんな大事業をやってたら日が暮れちゃうわぁん。」
「そうだ!鬼さんたちにも手伝ってもらおう!だってその道ができたら住むところは安全だもんね。それに同じことを一緒にやれば仲良くなれるもんね!」
「道具や技術は鬼たちの方が上だ。新しい技術を得られる機会にもなるかもしれない。それに土地についてはブシの方が詳しい。なら鬼たちにも教えてあげられるぞ。」
「それでお互いに信用できるようになるかも!」
「ではまずはヨリミチ様に伺いを立てましょう。」
※※※
ヨリミチ様の陣に戻ってその話をすると、ヨリミチ様はパッと明るい顔になった。
「もし鬼たちが受け入れてくれるのであれば道は開ける。」
トネリさんも、
「詔勅である皇道を拓くことが叶う。」
といって喜んでくれた。ミンブさんはあごひげをコネコネしながら
「鬼どもが従う道理がないですぞ。うんぬんかんぬん。」
「しかし、ともに手を取り合うことは良いことですな。」
「よ~し!次は鬼さんたちを説得だぁ!」
みんなはえいえいおー!
鬼の砦では黄鬼が待っていた。
「あっ使者っさま、使者っさまですね~。」
「うんそうだよ。頭鬼さんたちを集めてほしいの。」
「あっこっちっです。こっちっですねー。」
砦の奥には五人の鬼たちが集まってくれた。この前白鬼の横で頭を下げていた黒鬼と右にいた黄鬼さんは居なくなっていたけれど、立派な黄金の鎧を着た別の黒鬼さんがいた。
左の白鬼さんが
「のこのこやってきやがって。ムカつくぜ。やるならやるで全員でまとめてこいや。」
と挑発してきたけどひめかちゃんは気にしない。
「鬼さんたちにお願いがあるの。ヨリミチ様たちが新しい道をつくるからそのお手伝いをしてもらいたいの。」
右の白鬼が、
「つまり我々の道を通らずにその神山まで行くということですか?」
「うん、そうだよ。西の人たちみたいにヨリミチ様たちは住む場所を奪ったりしないよ。けれども信用ができないだろうから一緒に力を合わせて頑張ろう!」
「戦いをぉ避けられるならぁ喜んでぇ手伝いますけどぉ。」
と赤鬼。でも右の黒鬼さんが、
「センソーが避けられるのはわかる。だがそれは君らで勝手にすべきであろう。我々が手伝う必要はない。」
「ミンブの言う通りのこと言われたにゃ。まいったにゃ。その通りだにゃ。」
すると突然ひだりの白鬼が膝をついて、
「おぉメシアよ。あなたはメシアに違いない。我々を導く者よ。ついに・・・ついにこの時が来たのですね。如何ようにも従います。メシアよ。」
と、涙を流しながら言った。
「あらね、急にね、どうしたのかしらね。」
すると頭鬼さんも涙を浮かべて
「我らの祖先に当たる『神の子』はこう言われた。やがて東方よりきたれるメシアが我々に進むべき道を拓くよう諭しに来ると。ひめか様、あなたはやはりメシアだったのですね。我々は喜んで手伝いましょう。新たな道を開きましょう。」
鬼たちはみな涙を浮かべていた。黒鬼さんは顔の前で十字を切って震えていた。
そうしてブシと鬼たちとが集まって道づくりが始まった
うんとこしょ、どっこいしょ。
黄鬼さんの技術にブシたちは目を丸くして驚いた
うんとこしょ、どっこいしょ。
ブシ達の真面目さと気概に鬼たちは驚いた
うんとこしょ、どっこいしょ。
白鬼が言った「メシアの下で働けて嬉しい」と、トネリが言った「トノの下で働けて嬉しい」と
うんとこしょ、どっこいしょ。
赤鬼たちは優しくて、みんなのためにパンを焼いてくれた
うんとこしょ、どっこいしょ。
黒鬼たちは力持ち、ミンブさんは人よりも優れていると手放しに誉めた
うんとこしょ、どっこいしょ。
ヨリミチ様も頭鬼さんもみんなと一緒に働いた
うんとこしょ、どっこいしょ。
ひめかちゃんたちもお手伝い。ネコはごろにゃ~んって言って寝てた。
うんとこしょ、どっこいしょ。
※
やったぁ!新しい道ができたよ。
ヨリミチ様は頭鬼さんの手を取って言った。
「ありがとう。貴公らがいなくばこの皇道は造り上げられなかった。私たちはこの恩を決して忘れない。」
頭鬼さんも涙を浮かべて、
「ありがとう。貴方たちのおかげでメシアと出会えたのだ。この道はきっと救いにつながるだろう。」
「やったぁ!みんな仲良くなったね!けれどセンソーで傷ついたり死んだ人や鬼さんがかわいそうだね。」
ひめかちゃんはしょんぼり。するとひめかちゃんが持っていた杖のマガタマが暖かい光を放った。
なんとけがをしたり死んだりした人や鬼がみんな元気になった。
するとあの白鬼がひめかちゃんの下に来て片膝をついて手を広げて、
「おぉ!メシアよ。主の力の及ぶ者よ。何という奇跡!私は、我々はあなたと共に!」
そういうと大勢の鬼たちが同じように
「我々はあなたとともに」
ひめかちゃんが照れている
と、馬に乗ったブシがやってきた。
「きびどのー、きびどの!急信、急信にございますー。」
そのとき、海の向こうからきらびやかな光が空を染めてきた。
「んにゃあ!朝だ!朝がくるにゃぁ~ん。」
ねこさんはあたふたあたふた。
※※※
「ひめかちゃん、おはよう。朝ですよ。」
優しいお母さんの声でひめかちゃんは目を覚ました。
「ひめかちゃんおはよう。サンタさんからのプレゼントが届いているよ。」
「おはよう。おかあさん、お父さん。わぁ!プレゼントだ。なにかなぁ。」
0歳の時に買ってもらったプレゼント用の緑の大きな靴下は毛玉がもじゃもじゃできていて真ん中のヒツジもモジャモジャに包まれてまるで自分が緑色みたい。
箱を開けてみるとオレンジ色の猫のぬいぐるみが入っていた。
「わぁ!ねこさんだ。うれしい。ありがとうサンタさん。」
そういってぎゅっと抱きしめたネコが、朝の陽ざしを受けて、金色に輝いていたことに、ひめかちゃんは気づかなかったのでした。
<おしまい>